プロフェッショナリズムと問題解決の実践

https://note.com/tokyo_harbor/n/n8be4ace236e6

概要

本書は問題解決とプロフェッショナリズムの実践について記述した本である. 問題解決の本は数多くあるが,それらは概念レベルでの説明になっており,実際に行う際の注意点はあまりフォーカスされていない. 本書の良さは,これまでにない問題解決の実践にフォーカスを当てている点にある. また,合わせてプロフェッショナリズムの実践についても述べている.

感想

第 1 章で述べている通り,最初から最後まで実践にフォーカスされた内容で,常に Next Action が決まるような書き方になっていた. 普段からここに書いてある内容よりも低いレベルでそれっぽいことはやっているが,本書に書いてある内容を実践することでそれらのクオリティが上がる印象を抱けた.

職業的にはエンジニアではあるが,役職者と会話する機会も増えてきたので第 7 章の内容は非常に有益だった. というか,初めて役職者へ報告した際にうまくいかなかった部分がしっかりと言及されてた. また,第 8 章以降はエンジニアにしてもマネージャーにしても役立つ内容だった.

日常的に実践を意識していきたいと思える,非常に良い本だった.

詳細メモ

第 1 章 はじめに

コンサルティングファームで得られるのはプロフェッショナリズムと問題解決能力の 2 つ. プロフェッショナリズムとは高い付加価値の成果を出し続けるための基本動作のことであり,問題解決能力とは問題を定義しそれを解決するための方法論である.

問題解決とは文字通り問題を解決することであり,解決するためには何かしらの行動を取る必要がある. どんなに素晴らしいアイデアがあろうと,実際に何かしらの行動を起こさない限りは問題が解決されることはない. したがって,行動こそが最も価値がある行いである. ゆえに本書では問題解決と論点を以下のように定義する.

  • 問題解決とは行動を見つけることである

  • 論点とは行動を決めるための問いであり,必ず「べき」が含まれる

第 2 章 問題解決の概要

問題解決とは行動を見つけることであり,論点とは行動を決めるための問いである. したがって,問題解決とは論点に対して答えを出すことと言い換えることができる.

問題解決の流れには以下のような定石が存在する.

  1. 論点を定義する

  2. 論点を小論点に分解する

  3. 仮説を構築する

  4. 論点と仮説を検証する

  5. 解を伝える

問題解決にあたっては,現在定石のどのステップにいるのかを意識することが重要. また,これらのステップはウォーターフォール式に進むものではなく,何度も行ったり来たりするものである.

第 3 章 論点とはなにか

問題解決において最も大事な概念は論点である. 全ては論点を定義することから始まる. 様々な問題解決の名著ごとに論点もしくはイシューが定義されているが,本書では「論点とは行動を決めるための問いであり,必ず『べき』が含まれる」と定義している.

論点を定義する際は,「べき」を含まない,もしくは含めづらいような問いも考えられるが,次に取るべき行動を明確にするための問いであることから,多少強引にでも「べき」を含むように論点を決めるのがよい. ブレストなど一部の例外を除いて,論点を考える際は「べき」をつける習慣をつけるべきである.

また,論点は以下のように 1 文で定義されるべきである.

  • 精度を上げるためにはどのデータを使用するべきか?

筆者の経験の範囲内では 1 つの論点に費やされる時間はせいぜい 5~10 分ほどであるため,同じ会議であっても論点が変わるたびに都度論点を宣言し直すべきである. 5~10 分ほどで決着しない場合,その論点は単体では解決不可能である.

第 4 章 論点を分解する

ビジネスの場においては,論点を直接的に検証できないことがある. この場合はそれらを更に細かい論点に分解し,それらに対する回答を踏まえて論点に対する回答を決める形をとる. さらに細分化したとしても明確な答えを得られないケースが考えられる. この場合は時間を決めて調査し,一旦の回答を真として扱うとよい. ビジネスの場においてはあくまでも行動を起こして利益を生むことが目的であり,厳密な証明をすることではない. このため回答が出ないものに対してもある程度の時間を決めて検証し,そこで回答を出すというスタンスを持つ必要がある.

5~10 分で決着がつかない論点は,そもそも論点が間違っているか,直接検証不能であることを意味しており,それに対して時間を使うのは無意味である. この場合は論点を立て直すか,論点を小論点に分解するべきである.

問題解決においては思考する時間と検証する時間を明確に分けたほうがよい. 両方の時間が混在すると集中力が分散してしまい,思考と作業の両方が中途半端になってしまう.

論点の分解にあたって,小論点を解けば元の論点が解けるという構造になっている必要がある. このためには,小論点は MECE の関係になっている必要がある. ではモレがなくダブりのない関係になっていればいいかというとそうではない. MECE は全体を性質の異なるものに分解するべきであり,その結果として個別要素ごとに行動が変わらなければならない. また,MECE に拘りすぎるのもよくない. MECE の目的は行動を変えるために性質の違いによって分類することであり,論理ゲームをすることではない.

その他フレームワークも MECE 同様に,あくまでもものごとの全体感を担保できているのかを確認するための補助的なツールであることを認識すべきである.

イシューツリーはトップダウン的に作成したものとボトムアップ的に作成したものを見比べつつマージしていくと良い. トップダウンで元の論点を分解していくと,論理的には正しいが一般的な内容ばかりになり,プロジェクト固有の視点が失われがちである. これを回避するためにはボトムアップ的なアプローチを取る必要がある. 例えば論理構造は意識せず,元の論点に答えを出すために検証が必要な小論点を挙げていく. このとき関係者が気にしていた内容を挙げるように意識するとよい. しかしこの時点では MECE でなかったりレベル感が揃っていなかったりするため,挙げ尽くした段階でそれらを構造化していく. そしてトップダウンで作成したものと照らし合わせながら両者の整合性をとっていく.

第 5 章 仮説を構築する

論点を分解したら,次に仮説を作成する. 仮説とは,その時点で持ち合わせている情報だけを用い,足りないものは仮定した上で導き出す「仮の答え」である. したがって仮説が存在しないことはあり得ない. 常に,仮の答えを出すという習慣が大事.

仮説の価値はそれが正しいかどうかではなく,1 つの理屈として成り立っている点にある. 仮説構築の際は論理的に正しいかどうかを重点的に評価すべきである. 仮説は非常に細かいレベルで持っても全体に対するメッセージがわかりづらいので,ある程度大きな粒度の問いに対して持つと良い. つまり,末端の小論点に対して必ず仮説を持つ必要はなく,中論点もしくは大論点でもよい.

また,仮説構築時はそもそもその仮設の筋が良いのかも意識すべきである. この場合は知見のある専門家にフィードバックをもらうのが良いが,そうした状況にない場合は,問題解決のステップなどを無視して,時間を決めた上で情報収集に努める. 面白い情報か,つまらない情報かを意識しながら情報を取捨選択していく. その後改めて仮説を作るか,もしくはそもそもの論点の見直しを行う.

何かを考える際は,分析思考と概念思考の 2 つが考えられる. 分析思考は要素分解的に思考していくので論理的に正しく網羅性が担保されやすいが,新規性のある視点には気づきにくい. 一方で概念思考は物事を概念レベルで捉えてそれを基軸に思考していくため,網羅性は担保されないかもしれないが,新しい切り口が見つかりやすい. この 2 つを意識的に使い分けていくのが大事. 概念思考は経験が活きてくる思考法になる. 様々なコンセプトに触れていると,脳内にそれらが蓄積されていく. 蓄積されたコンセプトを当てはめて考えてみるようなイメージ?

第 6 章 論点と仮説を検証する

論点と仮説ができたら,次は仮説を証明するために必要なグラフや図表の用意を考える. この作業は仮説が十分に検討されていれば難しくはないが,実際に用意できるかどうかはこの段階で考える必要がある.

検証作業を進めると様々な事実が集まる. 次はこの事実から意味合いを出す必要がある. 本書では意味合いを「行動を起こすために事実を解釈すること」と定義している. それでもわかりづらいので,「行動の根拠になる予想を出す」と一旦解釈してる. この予想がどのくらい良いかというのが価値になる.

筋の良い予想を出すためには強引に白黒をつける習慣を身につけるべきである. これは,ある論点およびその上位の論点を解こうとしているときになにかの情報を得た場合,その情報だけで論点に解を出すなら答えは何かを考える習慣をつけるということ. 答えがでないときでも GOOD/BAD, やるべきかやらないべきかといった方向性だけでも出すことに意味がある. これを繰り返していくと論点に対する答えは得られ,また予想する能力も伸びていく.

仮説を証明するために情報を扱っている以上,どうしても確証バイアスが働きやすく,仮説と反する事実は理由をつけて排除しがちである. これに対しては,バイアスが働いていることを認識した上で検証結果を批判的に再検討する時間を確保するのが有効. このとき,仮説と反する事実がないか探す以外にも,そもそも仮説とはまた違った視点での予想が考えられないか,違う論点はないかを考える.

第 7 章 問題解決におけるコミュニケーション

論点が検証されたらそれを他者に伝える必要がある. 検証結果と同じくらいコミュニケーションの方法が重要である. 取るべき行動がわかったとしても,相手にうまく伝わらなければ結局意味がないからである. このため,コンテンツを検討する時間とは別にコミュニケーションを磨き込む時間も予め確保すべきである.

報告前に論理は十分に検討されているが,作成したイシューツリーは 2 次元的なものである. 一方で会話は 1 次元的なものであり,前後情報が非常に重要になる. イシューツリーには縦と横の関係が含まれているので,口頭でそのまま説明するのが良いとは限らない. つまり,情報を伝えるための順序を改めて考える必要がある.

良くできた論理はバランスの取れた美しいピラミッドになっていることが多い. 完成したピラミッドのバランスがあまりにも悪ければ一部の要素を検討していない可能性はあるため,批判的な視点で論理を見直す必要はあるが,美しいピラミッド構造に拘る必要はない. そこにリソースを割くよりはコミュニケーションの磨き込みに時間を割いたほうが良い.

ストーリーを考える際には,この順序で話したときに相手の印象に残るかどうかを意識したほうが良い. きれいな構造をしていても話が面白くなければ聞き手の印象には残らない.

実際に伝えるときにはコンテンツのうちのどこが面白く,どこが意外で,どこがダメなのかといった感情を込めて話すと説得力が増す.

また,背景と全体像は必要以上だと思うくらいに準備をすること. 作り手にとってそれらは自明であるために省きがちだが,聞き手は違う. 背景なしに説明するとまるで頭に残らない. 背景説明は以下の 2 点の問いに答えている必要がある.

  • そもそもなぜこのコミュニケーションが生じているのか?

  • このコミュニケーションの目的は何なのか?

問題解決をする上でプロセスとコンテンツは明確に区別しなければならない. プロセスは問題解決の段取りやアプローチのことであり,コンテンツは問題解決で解きたい論点の仮説もしくは結論である. シニアになればなるほどプロセスには興味がなく,コンテンツのみを議論したい. 問題解決においては検証方法は大事だが,あくまでも原則としてはプロセスよりもコンテンツに価値がある.

第 8 章 プロフェッショナルとは

本書ではプロフェッショナルを「高い専門性と再現性を持って高い付加価値を出し続けることを目的とした職業人」と定義する. 勤め人であれば自分が得ている報酬に対して概ね 5~10 倍の経済的貢献を会社に対して提供するべきであり,フリーランスであってもクライアントに対して 5~10 倍の効果を提供しなければならない. したがってプロフェッショナリズムとは「プロフェッショナルとして高い付加価値を出す姿勢」となる. ここで大事なのは高い専門性を身に着けたり再現性を高めたりするのではなく,あくまでも高い付加価値を出すことである. 前者は能力であるが,後者は結果である. 一般にスキルは「能力の要件が定義可能」「訓練によって獲得可能」であるため,コモディティ化しやすい. シニアになればなるほどその人にしかできない仕事が増えてくる. ゆえに詳細なスキルよりは,付加価値を出すことに焦点を当てるべきである.

第 9 章 必ず結果を出すために

必ず結果を出すために,どんな場面においても「自分はこう思う」という意見を表明する必要がある. 意見を表明するには,なぜその考えに至ったのかを論理的に説明できなければならない. もちろん反論もあり得る. しかし考えが織り込まれた意見を提示できることに価値がある. どんなに作業をしたとしても,「お前はどう思う?」に答えられなければ作業者でしかない.

高い付加価値の提供を目的にしているプロフェッショナルは,自身の立場に関係なく集団の目的達成のために行動していくリーダーシップの精神は必須である. 真のリーダーシップのある人は,自身の立場を言い訳にしない. 仮に自分に権限がないとしても,権限がある人に働きかけた上で目標を達成するかを考える. 結果のためには自分の立場とは関係なしにあらゆる手段を用いて達成しなければならない. 自分が常に集団の目的達成の最後の砦であり,自分が踏みとどまらないと目的は達成できなくなる,と考えるのである. 本書ではこのスタンスをラストマンシップと呼んでいる.

ラストマンシップを持っている人の仕事の成果物は,原則として完成されていて,手直しが生じることなくそのまま外部で用いることのできる品質である. 内容的には十分に考え込まれており,体裁などもすべて整っているような成果物である. ラストマンシップのある人は,自身の成果物は絶対にその集団の目的を達成するために十分な品質であると考えて仕事に臨む. つまり,完璧な仕事を目指す. プロフェッショナルは「最後に誰かが仕上げてくれる」と思ってはならない.

プロフェッショナルならばベストを尽くさなければならない. これはもちろん長時間労働のことではなく,思考の強度を上げることである.

プロフェッショナリズムを指針とし,現在の自分と客観的に対比し続けることで,プロフェッショナリズムを実践し続ける姿勢を身につけるのが大事.

第 10 章 プロフェッショナルとして

頭脳労働において高い付加価値を出すために高い専門性,そして自分だけしかできない価値を出すためには,ひたすら物事について考え,自分なりの見解を作り続けるしかない. どんなことに対しても自分の見解を持つことが大事.

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