ファシリテーションの教科書
https://books.globis.co.jp/2014/11/30/480/
概要
本書は関係者が腹落ちした上でアクションをとっていくためのファシリテーションの方法を整理している. そのためには仕込みと捌きが重要である. 仕込みでは以下を行う.
議論の出発点と論点を明確にする.
議論の参加者の理解度(議論の目的,議論対象に関する知識,議論の場の意義)と立場(何に対してどのような理由で賛成・反対の立場をとっているのか)を想像する.
論点の洗い出しと関係づけを行う.
論点をいくつか洗い出す.
論点のグルーピングを行う.
グルーピングした論点の中で抽象度の高い論点と細分化された論点を階層化し,整理する.
抽象度の高い論点が見つからない場合,細分化された論点を包含するものが何であるかを考える.
抽象度を揃えて階層化し,整理する.
議論を深堀りするために論点に対する切り口を用意する.
最終的な状態であるアウトプットと,それに影響を及ぼす変数であるインプットを考える.
これを実行して MTG の場に臨むことで,予め頭の中に整理された地図を用意し,現在の議論をその地図にマッピングできる.
捌きについては特に新規性を感じなかったので読み飛ばした. chapter 09 は有益そうだが現時点で必要性を感じてない.
ファシリテーションには,ファシリテータが力強く推進していくスタイルと参加者が積極的に議論していくスタイルの 2 つがあり,必要に応じて使い分けられるとよい.
感想
MTG 前の準備としての仕込みと MTG 時の捌きという立て付けで始まるが,仕込みの議論のときに MTG 中の話が出てくるので若干混乱した. 命名を変えた上で,MTG 前/最中を完全に切り分けていたらもっといい本になっていたと思う. とはいえ MTG を実施するにあたって必要なことを非常に細かく書いており,内容自体は極めて有益だった.
詳細メモ
chapter 01. ファシリテーション ― 変革リーダーのコアスキル
人々の意欲を高め,自発的行動を促すには,一方的に指示命令するのではなく,問いかけ,考えさせ,掴ませることで,メンバーに「腹落ち」させることが必要である. 「腹落ち」を生み出すコミュニケーションの技術がファシリテーションであり,MTG や面談などでメンバーや関係者に影響を与える立場のリーダーが身につけるべき必須スキルである. 腹落ちを生み出すには (1) 抽象的な方針や目的をその理由や背景とともに理解させ,(2) 抽象的な方針や目的をメンバーが理解可能な粒度で具体化し,(3) メンバーが生み出すべき成果およびそのためのプロセスの具体化,という 3 ステップを踏む必要がある. 実際の MTG で良いファシリテーションを行うためには (1) 本来あるべき議論の姿をイメージし,その場で出てくる発言を適切に位置づける地図を用意する「仕込み」,(2) ひとつひとつの発言に対して「意見を引き出す」「話を聞き,理解する」「話を導く」「話をまとめる」というステップを踏み,それぞれのステップで適切に考えることを選び,適切に反応・対応する「捌き」,の 2 つの技術が必要である. ファシリテーターには「仕込み」「捌き」だけでなく「問題解決」「構造的な話の理解」ができる能力と「人の可能性を信じ,意欲,能力,知恵を引き出す」という基本姿勢が必要である.
Part 1. 仕込み ― あるべき議論の姿を設計する
chapter 02. 議論の大きな骨格を掴む
「仕込み」では「自分が考える結論」に向けて準備するのではなく,「その場で議論する目的を達成するために,考え議論すべきこと」に参加者の思考を誘導するための準備を行う. ファシリテーションの「仕込み」とは,「議論の『出発点』と『到達点』を明確にする」「参加者の状況を把握する」「議論すべき論点を洗い出し,絞り,深める」の 3 点を行うこと.
MTG の目的はネクストアクションの決定にあるが,それをやるなら一人でやるほうが早い. 人を集める理由は,様々な観点を持つ人集め議論することにより「より良い結論を導く」という目的と,コミットする人の納得感を高める目的がある.
ビジネスにおける合意形成には「議論の場の目的共有」「アクションの理由の共有・合意」「アクションの選択と合意」「実行プラン・コミットの確認・共有」という 4 ステップがある.
失敗する議論の殆どは出発点と到達点が適切に設定されていない,もしくはそもそもそれらが意識されていないケースが極めて多い. 前者の場合,参加者の理解度が異なるために議論のモチベーションを理解できないことがありえる. このため,出発点を適切に設定するのは重要である. つまり議論の場において,「議論の場の目的共有」「アクションの理由の共有・合意」「アクションの選択と合意」「実行プラン・コミットの確認・共有」の 4 ステップのどこから話を始め,どこを到達点とするのかをしっかり考えることが重要であり,そのためには参加者の状況を把握することが必要である.
chapter 03. 参加者の状況を把握する
議論の場の参加者の状況を理解することは,会議を成功に導く上で極めて重要である. 参加者の状況を理解する際には,話されるテーマに対して参加者が「何を知っていて何を知らないのか」「どのような考え・意見を持っているのか」から抑えていく. 「認識レベル」とは参加者が「議論の前提」(議論の目的,背景,重要性),「議論の中身」(知識・経験・情報・状況イメージなど),そして「議論の場自体」について,何をどれくらい理解しているかということ. 「意見・態度」は,『賛否の対象」(参加者はどこに賛成・反対しているのか?),「賛否の理由」(どういった理由で賛成・反対なのか?),「賛否の背景」(参加者がそのように考えるに至ったのはなぜか?)を具体的にイメージしながら考えていく. 「参賀者の特徴と相互関係」を抑えることも重要. その際「議論に貢献すべき人とノイズになる人は誰か」「参加者相互の関係はどうなっているか」「参加者とファシリテーターはどのような関係を持っているか」に注意すると良い.
chapter 04.「論点」を広く洗い出し,絞り込む
ファシリテータは議論する上で自身が持っている結論に誘導しがちである. これはアンチパターンであり,本来は「論点」に誘導するのが良い.
論点とは「その意見や主張がどういった問いに答えているのか?」,つまり,意見が答えになるような「問い」である. 現場では様々な意見が出て対立や混乱が起きがちだが,そのときは「同じ論点について議論しているが,その論点に対する意見が異なっている」場合と「論点そのものが異なっている」場合がある. ファシリテータは,人間は複数のことを網羅的に考慮することが難しいという中で,適切に議論を導くことが求められる. そのために必要なのが以下の 3 ステップ.
広げる
合意に必要な論点を論理的に考え,「議論すべき論点」を押さえる.
以下のステップを踏む.
大きな問に答えるための論点をいくつか考える.
論点同士の関係を整理する.
似ている論点を 2~4 程度でグルーピングする
グルーピングした論点の中で,「抽象度の高い大きな論点」と「細分化された小さな論点」を階層化し整理する.
大きな論点が見つからなければ,細分化された小さな論点 a について,さらに a だから何? と考え,それを包含する大きな論点を考える.
論点の大きさを揃えて階層化し,整理する.
それぞれの階層における論点のセットについて,すべて「賛成」を得たと仮定し,それらの論点以外で「反対」ができるとすると,どのような論点かを考えて論点を補完していく.
参加者の立場(関心・利害.態度など)に立って,「議論になりそうな論点」をチェックする.
絞り込む
必要かつ重要な論点を絞り込む.
「議論すべき論点」「議論すべきでない論点」「議論する必要はないが,確認する論点」「おいておく論点」の 4 つを意識する.
深める
意見が分かれるポイントや正しい意思決定をするうえで重要な論点を具体的に深堀りする.
議論を活発化させるために,考える助けになるような切り口や判断する上で漏らしてはならない視点を用意する.
「アウトプット(結果としての状態)・インプット(アウトプットに影響を与える要因・投入要素)」の関係で必要な切り口や視点を洗い出す.
事前準備によって「議論の到達点」「重要な論点とその関係」を頭に刻み,頭の中に「論点の地図」を持ち,議論をそれにマッピングできている状態を目指す.
chapter 05. 合意形成・問題解決のステップでファシリテーションを実践する
論点を洗い出す際は合意形成のステップを細分化し,「場の目的共有→問題の明確化→問題箇所の特定→真因の追求→アクションの選択と合意→実行プラン・コミットの確認・共有」の流れを意識する. 「場の目的共有」では「話の場の目的自体は何か?」「合意のための手続きは妥当化?」「参加者への期待役割はなにか?」を考える. 「問題意識の明確化」では「あるべき姿」と「現状」を明確にし,ギャップである「問題意識」を明確にする. 問題意識のズレは議論の混乱を招くため,できるだけ具体的に考え,認識をすり合わせておくことが極めて重要. 「なぜ」を考える前に,「どこに」どのような問題があるのかを明確にする. それにより決め打ちによる見落としや,絨毯爆撃による時間の浪費を防ぎ,効率的な検討・議論が可能になる. 衆知で原因候補を集めてから,影響が大きいものに絞り込み,深めていく. 「アクションの選択と合意」においては取りうるオプションを洗い出し,「選択する基準」を揃えた上で,そのアクションを取った場合の「リスク」と対応策をチェックする. 議論の最後には「実行プラン・コミットの確認・共有」を忘れずに行う.
Part 2. 捌き ― 議論を活性化し,思考を導く
chapter 06. 発言を引き出し,理解する
「捌き」とは議論の場で参加者の意見を引き出し,適切に導くための技術. 「捌き」においてはファシリテーターが主役になるのではなく,控えめな言動を心がけるべき. 「発言を引き出す→発言を理解し,共有する→議論を方向づける→結論づける」が「捌き」の基本ステップとなる. 「発言を引き出す」ためには,参加者の「発言に対する意欲を高め」,「発言しやすいよう刺激を与える」. その際ファシリテーターが「本当に聞きたい」という姿勢をしっかり示すことも重要. 「発言を理解し共有する」力はファシリテーターの最重要スキル. そのためには (1) 発言を聞き理解する,(2) 発言を受け止めたことを発言者にはっきり示す,(3) 理解を確認する,(4) 参加者全員が発言を理解できるようにする,という基本動作を繰り返し,「論点・主張・根拠・発言の目的」を丁寧に読み取っていく.
chapter 07. 発言を深く理解する
ファシリテータは日頃から「発言を深く理解する力」を訓練し,高めておくことが必要. 「深い理解」のためには,主張が演繹的な,もしくは帰納的な論理で根拠付けられる「論理の三角形」をイメージし,その構造を意識して話を聞く癖をつけるとよい. 多くの発言は「主張が不明確」,「根拠が不足」,「論点が欠落」している. 発言者の主張が成立するとしたら,どこがかけていて,本来どのようなものが必要なのかを推定しながら注意深く話を聞く. そのうえで,欠落部分を問いかけ,確認していく.
chapter 08. 議論を方向づけ,結論づける
「議論を宝庫付ける」前に,発言に対する対応を決める必要がある. その際に「今ここで議論すべき論点か?」が重要な判断基準. 「今ここで議論すべき論点」についての発言の場合,基本は何もしない. 必要に応じて論点を再確認したり,論点を広げ,深めるための働きかけを行う. 「今ここで議論すべきでない論点」の場合,意見を論点に転換した上絵,参加者の反発を招かないように注意しながら修正する. 「議論の方向」は「広げる」「深める」「止める」「まとめる」の 4 つ. 方向を強く意識するとともに,方向が自然かつ明確に伝わる言葉遣いを駆使する. 「議論を止める」ときは,参加者が「止められた」ことに負の感情を持たないように細心の配慮をする. 議論を「まとめ」「結論づける」ときには,「決まったこと」「決まっていないこと」を明確にし,参加者に確認する. 議論がまとまらないときは「条件付きの合意」を形成することが有効.
chapter 09. 対立をマネジメントする
意見の対立の背後には「基本となる認識の相違」「考えつく解決策の内容・幅の違い」「判断基準の違い」が存在する. 対立の理由がどこにあるのかを見極めることが重要. 「基本となる認識の相違」があれば,情報を共有するなど,参加者間の情報格差をなくし,認識を揃えるための働きかけを行う. 「考えつく解決策の内容・幅の違い」から生じる対立に対処するには,そもそも取りうるオプションが複数あり,それぞれにメリット・デメリットがあることを認識させ,バランスよく考えられるように手助けする. 「判断基準の違い」が対立の原因である場合,目的やあるべき姿を合意可能なレベルまでさかのぼって議論・共有して合意を引き出し,そこから議論を進めていく. 対立の背後の感情に気を配る. あえて「しっかり議論を戦わせる」場をつくり,感情を吐き出させた上で,参加者自らが「対立を解決しなければ」と感じるように仕向ける方法も,コントロールは難しいが有効である.
chapter 10. 感情に働きかける
ファシリテーションの対象は感情を持った人間であるため,感情に配慮し,働きかけることが有効である. 特に議論の初期段階では,創造的・活発・安心感がある雰囲気作りを心がける. 議論のテーマ・内容に対する参加者の感情を考え,備える. 「ネガティブ」な感情を持っているのであれば,まずはその感情を表に出させて認める. 「無関心」であれば,関心を持てるように一定レベルの認識を形成する, もしくは感情を刺激することで関心を醸成していく. 「集団」は,「烏合の衆」の状態から,「対立」を経て「団結」の段階に至る. そして「変革」が必要な段階へと進化.変化していく. こうした集団の進化のステップを理解し,適切にコントロールしながら進化を促進するのもファシリテータの重要な役割.
chapter 11. ファシリテーションは「合気道」
ファシリテーションには,「ファシリテータが考えたステップを強くガイドし,その流れに乗せて考えさせる」というしっかりコントロールする方法と,「各人の意見から出発し,理解・共有に時間を使いながら,徐々に必要な論点に気づかせる」という極力コントロールしない方法の 2 つがある. 時間的な制約が強い場合は前者を採用し,余裕がある場合は後者を採用する.
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